経済統計の使い方
統計初心者の社会人向けに、経済データの解説をしています。「まとめページ」をご覧くだされば、全体的な内容がわかると思います。
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【経済統計】建設工事受注動態統計の不適切処理|二重計上はなぜ発生したか?

建設工事受注動態統計の二重計上が問題になりました。この不正問題についてまとめておこうと思います。

国土交通省が、調査票の不適切な取扱いを指導して結果的に二重計上が生じ、受注額が水増しされました。

しかし、一体何が不適切なのかわからない、という人が多いのではないかと思います。

この記事を読むと何が不適切だったのか、不適切の中身がよくわかります。

経済統計の使い方では、経済統計の入手法から分析法まで解説しています。

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建設工事受注統計とは

建設工事受注動態統計は、土地造成や道路、鉄道など土木工事や病院、娯楽施設など建築工事の統計を合わせたもので、重要な統計である基幹統計の一つです。

建設工事受注動態統計建設総合統計を作る際の元データになります。建設総合統計についてはこちら

建設総合統計は、GDP統計の公的資本形成や民間企業設備投資を作る際の元データになります。このため、建設工事受注動態統計の数字が修正された場合、GDPの数字へも影響します。GDPへの影響の仕方は、速報値と年次推計値では違います。

  • (速報)建設工事受注統計→建設総合統計→公的資本形成、民間企業設備投資
  • (年次推計)建設工事受注統計→建設総合統計→設備投資(総固定資本形成-公的資本形成ー民間住宅投資)
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合算したことで、二重計上が発生

不適切な手続きについて説明します。詳しい資料は国土交通省の建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る遡及改定に関する検討会議資料にあります。

建設工事受注統計調査検討会議資料

参考資料8 「建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る検証委員会」の報告書について(令和4年1月14日)に詳しく書いてありますが、ポイントは12ページです。問題を以下の3つにまとめています。

  • 合算問題
  • 二重計上問題
  • 事後対応問題

事後対応問題も大きな問題ですが、ここでは、統計の観点から、合算問題二重計上問題について解説します。

例を用いて解説します。4月と5月の受注データの場合を考えます。問題の処理は以下です。

「4月分を集計した後、建設業者から送られてきた4月分のデータを、5月分と合算して、5月分のデータとした」

正しくは、4月分のデータを4月分として集計し直し、5月分は5月分と発表するということになりますが、4月は変更せず、5月に4月と5月の合算分を計上しました。これが合算問題です。

この処理は問題ですが、4月分が5月に移動しただけなら、4月と5月の数字はおかしくなるけれど、4月と5月を足したものは同じなので、四半期、年間の数字には影響なさそうです。しかし、その後統計処理を行うため、新たに二重計上問題が起こります。

建設工事受注統計は標本調査なので、建設業者から回収した数値をもとに、日本全体の数値へと膨らませています。調査対象となっているのに4月分のデータを提供しなかった建設業者の受注額は、4月に回収できた建設業者の受注額の平均値として計上されます。

そのうえ、5月には4月、5月分の合算データが計上されるため、4月に計上された分が二重計上になります。

普通に考えれば二重処理に気づいて、すぐに修正できそうなものですが、何年もこの処理が行われていました。

4月5月
本来4月分5月分
不適切処理回収データの平均値(この部分が二重計上)4月分と5月分

不適切処理の影響は5兆2000億円

建設工事受注動態統計は、2022年8月に遡及修正されました。その詳細は、以下の検討会議の資料にあります。不適切処理による遡及改定の影響は、元請と下請計で最大5兆2000億円程度(2015年度、2016年度)にのぼっています。

建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る遡及改定に関する検討会議

(出所)建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る遡及改定について

建設工事受注統計の不適切処理のGDPへの影響は、内閣府が公表しています。2020年度が0.1%、2021年度も0.1%分の上方修正になりました。2017年度以前は、受注統計は使われていないため、GDPに影響はなく、その後は多少GDPを増やす方向に修正されています。

(出所)建設総合統計の遡及改定による影響について

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