毎月勤労統計は、統計不正問題で大きく取り上げられた統計です。イメージの悪い統計と思っている人も多いと思いますが、重要な統計であり、目が離せない統計です。
かねてから問題になっていた、「サンプル全とっかえ問題」は今年になって解消されました。今後も、改善動向を注目していきたい統計です。
経済統計の使い方では、経済統計の入手法から分析法まで解説しています。
雇用全般について調査
毎月勤労統計は、賃金や労働者数、労働時間について月次で入手できる統計です。特に賃金動向は重要で、現金給与総額(1人当たり、名目)の前年同期比が代表的な指標です。
指標名 | |
賃金 | 現金給与総額、実質賃金 |
労働時間 | 総実労働時間数、所定外労働時間、出勤日数 |
労働者数 | 常用雇用、パートタイム労働者比率 |
賃金の内訳
現金給与総額はいくつかの項目に分類されています。所定内給与は通常の給料で、所定外給与は残業代です。所定内給与と所定外給与を合わせたものが決まって支給する給与になります。特別に支払われた給与はボーナスです。物価で割った実質賃金も計算されています。
- 現金給与総額
- 決まって支給する給与
- 所定内給与
- 所定外給与(=残業代)
- 特別に支払われた給与(=ボーナス)
- 決まって支給する給与
常用労働者
毎月勤労統計で、常用労働者とは、次のいずれかを満たすものとしています。
- 期間を定めずに雇われている者。
- 1か月以上の期間を定めて雇われている者。
また、パートタイム労働者は、次のいずれかを満たすものです。常用労働者からパートタイム労働者を除いたものが一般労働者です。
- 1日の所定労働時間が一般の労働者よりも短い者。
- 1日の所定労働時間が一般の労働者と同じで1週の所定労働日数が一般の労働者よりも少ない者。
常用労働者には、正社員のほか派遣社員や契約社員も入ります。毎月勤労統計では、派遣社員や契約社員といった分類はないので、分析は、一般労働者とパートタイム労働者という分類のみできます。
全体の3分の1を入れ替え
企業に対して毎月賃金や労働時間を尋ねる調査のため負担が大きく、全数調査は難しいです。このため、一部のサンプル(標本)を調査して日本全体の値(母集団)を推計しています。以前はサンプルをすべて取り替えていて、サンプルを変えた時に数値が多く変わることが問題になっていました。そこで、2018年1月から部分入れ替え法を段階的に導入し、2022年1月からは毎年全体の3分の1ずつを取り換える方式に完全に移行しました。
サンプル変更と同時に、母集団情報も更新しています。母集団情報を変えると、標本から母集団の推計結果が変わります。このことを厚生労働省はベンチマーク更新と呼んでいます。
詳しくは厚生労働省「毎月勤労統計調査におけるベンチマーク更新等(令和4年1月調査)の対応及び影響について」を参照してください。
どの程度影響があったかは以下の通りです。2022年1月のサンプル替えとベンチマーク更新前後の前年同月比の値です。現金給与全体では伸び率の修正は0.3%ポイントに収まっていますが、所定内給与は更新前は前年同月比0.5%だったのに、更新後には同1.1%と大きくなっています。上記資料による厚生労働省の説明では、サンプル替えによるパートタイム比率の低下の影響が大きいとしています。
更新前 | 更新後 | サンプル替え・ベンチマーク更新の影響 | |
現金給与総額 | 0.8% | 1.1% | 0.3%ポイント |
所定内給与 | 0.5% | 1.1% | 0.6%ポイント |
共通事業所とは
月例経済報告には、現金給与総額の前年同月比に共通事業所という項目があります。これはサンプル替えをしなかったサンプルどうしを比較して計算したものです。
毎月勤労統計は、毎年3分の1のサンプルを入れ替えます。これによる断層を修正しないものが通常の数値ですが、サンプル替えしなかった残り3分の2のサンプルを使って計算したものが共通事業所の数値となります。こちらは断層がない代わりに、サンプル数が3分の2になります。