F検定は、F分布を使った検定のことですが、回帰分析では、係数制約の仮説検定に使います。係数制約とは、「係数がゼロ」という帰無仮説に関する検定などです。これの応用として、チャウテストやグレンジャーの因果関係の検定があります。
経済統計の使い方では、統計データの入手法から分析法まで解説しています。
係数制約の検定
係数制約の検定は、係数を制約しない場合の残差二乗和($SSR$)と係数を制約した場合の残差二乗和($SSR_r$)を計算します。
2つの残差二乗和は、nをサンプル数、pを無制約モデルの定数項を含めた説明変数の数、qを制約の数として、以下のF分布に従います。
$F= \dfrac{(SSR_r-SSR)/q}{( SSR )/(n-p-q)}$
統計ソフトでは、F値とともに、それが現れる確率(p値)も出力されます。「係数制約がある」という帰無仮説のもとで、F値を計算し、それが偶然起こるには程遠いほど確率(p値)が低ければ、帰無仮説を棄却し、「係数制約がない」という結論を導き出します。
- 帰無仮説 係数制約がある
- 対立仮説 係数制約がない
- F値が大きい(p値が小さい) 係数制約がない
係数のゼロ制約
最小二乗法の推計結果として出力されるのは、「係数がすべてゼロ」という帰無仮説の検定です。以下の2つの式の残差二乗和を計算してF検定をします。
$無制約 y_t=\beta_0 + \beta_1 x_{1t} +\beta_2 x_{2t} +e_t$
$制約付き y_t=\beta_0 +e_t$
制約は、$\beta_1=0$と $\beta_2=0$ の2つです。q=2となります。
$F= \dfrac{(SSR_r-SSR)/q}{( SSR )/(n-p-q)}$
F値が大きい(p値が小さい)ということは、帰無仮説が棄却できるということで、係数の少なくとも一つは係数がゼロでない。つまり、少なくとも一つの変数は被説明変数に影響を与えていることがわかるということになります。
- 帰無仮説 定数項を除く係数がすべてゼロ
- 対立仮説 定数項を除く係数の少なくとも一つはゼロではない
- F値が大きい(p値が小さい) 係数の少なくとも一つはゼロではない
チャウテスト
チャウテストは構造変化のテストです。推計期間によって係数が変わると、構造変化があると考えられます。
すべての推計期間をt=1,2,\dots,Tとします。この期間のk期に構造変化がある場合、構造変化前の期間$t=1,2,\dots,k-1$ と構造変化後の期間$t=k,k+1,\dots,K$ では係数が変化するはずです。それを検定します。
$無制約1 y_t=\beta_a + \beta_a x_{t} +e_t(t=1,2, \dots, k-1)$
$無制約2 y_t=\beta_b + \beta_b x_{t} +e_t(t=k,k+1,\dots, T)$
$制約付き y_t=\beta_0 +\beta_1 x_t +e_t (t=1,2,\dots,T) $
制約は、$\beta_a=\beta_b$ の一つです。成約数q=1となります。
$F= \dfrac{(SSR-(SSR_a+SSR_b))/q}{( SSR_a+SSR_b )/(n-p-q)}$
F値が大きい(p値が小さい)ということは、係数が等しいという帰無仮説が棄却されることを意味します。つまり、係数が変化したということで、構造変化があったということになります。
- 帰無仮説 構造変化が無い
- 対立仮説 構造変化がある
- F値が大きい(p値が小さい) 構造変化がある
グレンジャーの因果関係
グレンジャーの因果関係は、ある変数xの過去の値がほかの変数yに影響を与えている時、xがyに対してグレンジャーの因果関係があると考えます。本当に因果関係があるかはさておき、時間的な差から因果関係を想定するものです。本来の因果関係とは違うので、「グレンジャーの因果関係」「グレンジャーの意味での因果関係」と呼ばれます。
グレンジャーの因果関係もF検定です。
$無制約 y_t=a_0+ a_1 y_{t-1}+ a_2 y_{t-2} + a_3 x_{t-1} + a_4 x_{t-2}+ +e_t $
$制約付き y_t=a_0+ a_1 y_{t-1}+ a_2 y_{t-2} + +e_t $
制約は$a_3=0$と $a_4=0$の2つです。
F値が大きい(p値が小さい)ということは、過去のxの係数がゼロである、という帰無仮説が棄却されることを意味します。つまり、xからyに対して因果関係があるということになります。
- 帰無仮説 因果関係がない
- 対立仮説 因果関係がある
- F値が大きい(p値が小さい) 因果関係がある
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