試験の一環として書いてもらった質問への回答です。
- ミクロ経済学
- 最近は、他者からの評価や時間的なゆとりが重視されるが、損得の定義が変わることがあるのか?過去に経済学の理論が変更されたことは?合理的な判断をしないことを前提とした理論はあるか?
- 上級財や下級財の取り決めはどこでやっているのか?
- ギッフェン財の需要曲線は右上がりですか?ギッフェン財は主食が多いが、食パンはギッフェン財になるか?ギッフェン財の動きを感じたことはあるか?
- 無差別曲線で、ゲーム時間や読書時間から満足度の高い時間の過ごし方が計算できるか
- 定額の法人税をかけると供給曲線はどうなるか?
- 石油などの先物取引を需要曲線や供給曲線で考えることができるか
- 時間の効果について。「タイパ」という言葉があるように、時間を重視することが多いのではないか。
- 別の商品で利益を出していればある商品を安くできる。これをミクロ経済学ではどのように扱っているか。
- 経済学が実際の社会で応用できるか、限界収入、限界費用などは実社会で使われているか。
- すべてが理論通りにいかない場合、どのようなことに注意するべきか
- 代替効果について:x財の価格が下がった場合は、所得効果が負で、代替効果は正になるということだったと思いますが、x財の需要が増えないのはなぜでしょうか?
- 経済学は過去のデータを分析するが、未来に起こりうる好景気や不況等の予測をして、事前に予防などができる学問ではないということでよろしいでしょうか?
- マクロ経済学
- 日本が成熟した債権国から債権取り崩し国に移行するのにどの程度時間がかかるのか?人口減少による負の影響を抑制する有効な経済政策はあるか?
- デフレが続いた理由
- 経済学が理論通りに行かない理由や問題点はなにか
- 持ち家かどうかをどのように判断するか
- SNSなどによる偽情報が流れたり、個人投資家が増えたりしていることは、金融システムの頑健性に影響を与えているのか?
- 県民経済計算以外の指標で一人当たり予測をするうえで有効な指標は?
- ユーロ使用国間の物価は、異なる通貨の国同士の物価差より小さいのか
- 購買力平価はどのようにして計算するのが正しいか
- 為替レートと購買力平価のかい離はどう収束するか?
- 情報サービスの計上方法はGDPではどのように行うのか
- その他
ミクロ経済学
最近は、他者からの評価や時間的なゆとりが重視されるが、損得の定義が変わることがあるのか?過去に経済学の理論が変更されたことは?合理的な判断をしないことを前提とした理論はあるか?
経済学でいう損得は、お金の損得だけに限らないので、「効用」という概念を使っています。他者からの評価が上がるれば「効用」が増え、時間的にゆとりが増えて「効用」が増えるという前提なら、「効用最大化」の枠組みで議論できると思います。
理論が変更されたという意味では、合理的な個人を前提としない「行動経済学」の台頭でしょうか。
行動経済学については以下の記事などを参考にしてください。
上級財や下級財の取り決めはどこでやっているのか?
「生産財」とか「消費財」は確かに、品目が決まっていますが、「上級財」か「下級財」かを誰かが決めているわけではありません。時と場合によって、上級財になったり、下級財になったりする場合もあると思います。所得が上がると購入数量が増えるのか減るのかで考えるとよいと思います。
ギッフェン財の需要曲線は右上がりですか?ギッフェン財は主食が多いが、食パンはギッフェン財になるか?ギッフェン財の動きを感じたことはあるか?
ギッフェン財の例を挙げてほしいという質問が多かったですが、かなり特殊な例なので、あまり例はないと思います。
インスタントラーメンやパンなど最低限食べなければならない財はギッフェン財の可能性があります。インスタントラーメンの価格が上がれば、インスタントラーメンの需要が減って、お店のラーメンへの需要が増えます(代替効果)。しかし、手持ちのお金は実質的に減っているで、下級財としてのインスタントラーメンへの需要が増え(所得効果)、所得効果の方が大きい場合はギッフェン財になります。
「価格が下がると需要が減ったり、価格が上がると需要が増える財」なので、かなり直感に反しています。ただ、代替効果と所得効果に分けて考えると、理論的にはありうる、というのが経済分析の面白さでしょう。
無差別曲線で、ゲーム時間や読書時間から満足度の高い時間の過ごし方が計算できるか
通常購入数量で分析するところを使用時間として、無差別曲線による分析はできると思います。
時間の使い方に関する効用最大化は、労働と余暇という形で経済学の基本的な分析の一つになっています。以下の論文などを参考にしてください。
余暇と労働時間の長期的推移に関する経済理論と実際(日本労働研究雑誌)
定額の法人税をかけると供給曲線はどうなるか?
定額の法人税をかけても、供給曲線は変わらないですが、平均費用は増加するので、撤退する企業が増えるかもしれません。以下のロジックです。
- 定額の法人税をかけると、総費用が増加する。
- しかし、限界費用(総費用の傾き)は変わらない
- 利益を最大化する生産量は変わらないので、価格と生産量の関係は変わらない。
- このため供給曲線は変わらない。
しかし、平均費用は増え、利益の水準は変わるので、撤退する企業が出てくる可能性があります。撤退する企業が増えると市場全体の供給が減って、市場価格が上がる可能性があります。また、コスト削減努力で限界費用を減らすことができるかもしれません。
石油などの先物取引を需要曲線や供給曲線で考えることができるか
先物取引も、需要と供給に分けて考えることができます。現実の需要や供給ではなく、将来の需要や供給を考えることになると思います。
需要や供給に与える要因は、天候、景気、政治情勢などさまざまですが、いずれも予想になることが先物取引の需給を考える場合に重要です。逆に、先物取引の値段から、市場の予想がわかることにもなります。
時間の効果について。「タイパ」という言葉があるように、時間を重視することが多いのではないか。
経済学でも時間を重要な分析対象として扱っています。なかでも割引現在価値が重要だと思います。1年後の100円と現在の100円を異なるものとして捉えています。
ほかにも、時間を考慮に入れて、効用や利益を最大化する「動学的最適化」などの理論もあります。
生産性は、単位時間当たりの生産量なので、時間の概念を使った分析ということも言えます。
別の商品で利益を出していればある商品を安くできる。これをミクロ経済学ではどのように扱っているか。
市場シェア拡大のために価格を安く設定したり、原価以下の商品を販売して顧客を引き寄せるということはあると思います。これらは、「価格戦略」というマーケティングの分野になると思います。
ミクロ経済学では「利益最大化」の理論をベースにして分析し、現実への応用はまた別の分野で行うと考えるとわかりやすいと思います。
経済学が実際の社会で応用できるか、限界収入、限界費用などは実社会で使われているか。
経済学は原理原則を追求しているので、すぐに応用できるものではないものもあります。理系の理学部に近いかもしれません。一方で、ビジネスの基本にも経済学はあります。
日経ビジネススクールのプログラムに「ビジネスに使える経済学」という講座があります。価格設定に経済学を使おうというものです。
ビジネスに使える経済学:経営としてのプライシング(日経ビジネススクール)
すべてが理論通りにいかない場合、どのようなことに注意するべきか
理論は原理原則で考えて、理論モデルを作ります。ここはあまり複雑にしない方が良いのではないかと思います。論文の書き方としては、まずモデルで理想的な状況を考えて、次に実証分析を行うという手順を踏みます。
実証分析でどうしても生じる例外的なものは、ダミー変数などで処理することになります。計量経済学は理論と実証の間を埋めるために発展してきました。
代替効果について:x財の価格が下がった場合は、所得効果が負で、代替効果は正になるということだったと思いますが、x財の需要が増えないのはなぜでしょうか?
X財の需要が増えるのが普通です。それが代替効果です。一方、所得効果がものすごく大きければ、需要が減る場合もある、ということです。
経済学は過去のデータを分析するが、未来に起こりうる好景気や不況等の予測をして、事前に予防などができる学問ではないということでよろしいでしょうか?
経済予測は、未来の景気などを予測するものです。予測自体は過去の動きから予測していますが、目的としては、将来起こりうる危機を未然に防ぐことだと思います。私も「経済予測」に関する本を書いています。
マクロ経済学
日本が成熟した債権国から債権取り崩し国に移行するのにどの程度時間がかかるのか?人口減少による負の影響を抑制する有効な経済政策はあるか?
ISバランスで考えると、高齢化が進むと、高齢者の貯蓄は少ないので、貯蓄が減っていきます。投資が変わらない場合は、経常黒字は減るということになります。
$貯蓄ー投資=経常収支$
ただ、日銀の分析では、第一次所得収支黒字が大きいので、経常収支赤字になるのはまだ先だとしています。
対策としては、いかに貯蓄を増やすか、いかに投資を減らすかということになります。投資を減らすのは縮小均衡になるので、貯蓄をいかに増やせるかということにあります。投資収益を増やすのも一つの手段でしょう。
デフレが続いた理由
バブル後の不良債権が大きく、その対応に追われていていたことが問題でしょう。また、不良債権処理の影響などで、新たな産業が育たなかったことが問題だと思います。
直接的には、「値上げをすると需要が減少してしまうため、値上げできない」、という需要の弱さだと思います。その原因はいろいろとありますが、一つに特定するのは難しいです。
経済学が理論通りに行かない理由や問題点はなにか
経済学の理想は、世界をできるだけ明解な理論で説明しようということで、ある程度細かいことは捨象する必要があると思います。現実はもっと複雑で、不規則なこともあるということでしょう。
一方で、機械学習の世界では、現実をすべて説明しようとするとモデルが複雑になって、未知のデータに対しては使えないという過学習という問題があります。
持ち家かどうかをどのように判断するか
持ち家や貸家の数、貸家の家賃の水準は、「住宅・土地統計調査」や「消費者物価指数」でわかるので、計算できます。
ただ、住宅の質の違いによる家賃の差をどう反映するかなど、改善点もいろいろあるようです。
などを参考にしてください。
SNSなどによる偽情報が流れたり、個人投資家が増えたりしていることは、金融システムの頑健性に影響を与えているのか?
たしかに、偽情報などは金融システムを不安定にします。最新の日本銀行の金融システムレポートでは、生成AIについて触れています。
新しい技術への対応について、例えば、近年、「⽣成AI」が急速に社会に浸透しはじめているもとで、利⽤に際しては、活⽤可能性とリスクの双⽅を⼗分に認識しておく必要がある。 <金融システムレポート(2024年10月版) デジタル技術に関連するリスク>
個人投資家については、不安定な行動をする場合はありますが、リスクの分散や流動性の向上などの良い面もあり、それほど大きな影響を与えないと思います。
県民経済計算以外の指標で一人当たり予測をするうえで有効な指標は?
都道府県別の資料ということでは、鉱工業生産指数や有効求人倍率、失業率などだと思います。都道府県別に景気動向指数を作成している都道府県の場合は、その構成指標を使うことが考えられます。私は、景気動向指数から県内総生産を推計できるかどうか、試みています。本文はここからは見れませんが。
景気動向指数CIから実質GDPを推定する-ARDLモデルによるナウキャスト(山澤成康)
ユーロ使用国間の物価は、異なる通貨の国同士の物価差より小さいのか
通貨統合により、物価の安定が期待されましたが、ユーロ域内でもインフレ率に差が国がああったようです。ただ、異なる通貨国同士よりは小さいかもしれません。
しかしながら、後述のとおり世界金融危機以前は、ユーロ導入にともなって経済のファンダメンタルズとかい離した高い信用が市場から付与されたことから資金調達が容易になり、景気が過熱しECBのインフレ参照値等と大幅なかい離が生じるようなインフレが続いていた場合でも、これらの政策を通じて歯止めを機動的にかけることが難しい事態となっていた (第2-1-48図)。
世界の潮流2021Ⅱを参考にしてください。
購買力平価はどのようにして計算するのが正しいか
簡単に考えると、消費者物価指数どうしで比べることが考えられます。そうそれば、各国で使う財やサービスのウエートが違っても比較できるためです。しかし、両国の指数を比べることになるので、絶対的な水準はわからないです。購買力平価と市場の為替レートが等しい時点というのがわかれば、そこを基準にすればいいですが、わからない場合は、水準での議論は難しいことになります。消費者物価指数で購買力平価を計算した例がありますので、参考にしてください。
為替レートと購買力平価のかい離はどう収束するか?
これまでは、購買力平価に沿う形で円高が進行していました。現在は、市場の為替相場が円安になっています。円安→輸入物価の上昇→国内物価の上昇→購買力平価が円安、というルートがあるとは思いますが、かなりの物価上昇(物価が2倍や3倍になる)が必要なので、購買力平価での調整は難しいのではないかと思います。
情報サービスの計上方法はGDPではどのように行うのか
情報サービスをGDPに計上するのは難しい問題です。以下のコラムを書いたことがあります。
「統計 危機と改革」では情報サービスについても触れています。私も著書となっているこちらの本を参考にしてください。
その他
好きなディズニーキャラクターは何ですか?
不思議の国のアリスのアリスが好きです。仮装するならハイタワー3世がいいです。