四半期統計ではGDP統計の「民間最終消費支出」が最も信頼性が高いです。月次指標でみると、業界ごとの統計は多いですが、消費全体を捉える統計はそれほど多くありません。「月例経済報告」の主要経済指標で使われているものを中心に紹介します。
経済統計の使い方では、経済統計の入手法から分析法まで解説しています。
1位 消費総合指数
あまりなじみのない統計かもしれませんが、内閣府が作成する統計で、月例経済報告では消費統計の最初に掲載されています。GDP統計の作成法にできるだけ近づけた形で月次の消費統計を作ったものです。
作成法は、消費総合指数の推計方法について (stat.go.jp) がわかりやすいです。詳しい資料は、消費総合指数の作成についてにあります。
家計調査や生産動態統計、サービス産業動向調査などさまざまな統計を加工して作ったもので、消費全体の動向をみるという意味ではこの統計が最適でしょう。
ただ、家計調査はサンプルが少なく信頼性が低いということで、日本銀行では販売側のみで消費全体を把握する、消費活動指数を発表しています。
一方、総務省は、家計調査を加工して、GDP統計の概念に合わせた消費動向指数(CTIマクロ) を発表しています。
2位 商業動態統計
経済産業省が発表する「商業動態統計」の小売業販売額が有用です。販売側から消費をみたもので、百貨店、スーパー、コンビニエンスストアなどの内訳もわかります。
注意点としては、企業が小売店でモノを買っても、販売額に計上されることです。また、ホテル、外食、運輸といった、消費の重要な部分であるサービス消費は含まれていません。その意味では消費全体を表しているとは言えないことになります。
以前は、POSデータを利用した、METI POS小売販売額指標[ミクロ]が発表されていました。ビッグデータによる週次で速報性のあるデータでしたが、2022年3月で更新が止まっています。
3位 家計調査
家計調査は、各家庭に家計簿をつけてもらい消費動向を把握した調査で、消費を把握するのにふさわしい統計です。しかし、サンプル数が少ないので、購入頻度が低い自動車やパソコンなどの販売額はブレてしまい、実態を表しません。
ニュースでは、「2人以上世帯の1世帯当たり消費」の結果が発表されることが多いです。この統計には単身者世帯が含まれていません。最近は若者の単身者のほか、高齢者の高齢者も増えており、これらの層の消費動向が反映されないことになります。
月例経済報告でも2人以上世帯を使っていますが、「住居」、「自動車等購入」、「贈与金」、「仕送り金」を除いた、実質消費支出(除く住居等)も発表しています。消費の定義に合わないものや、購入頻度が低いものを除いた統計です。
参考:GDP統計
消費の統計で信頼性が高いのは、国内総生産(GDP)の内訳である「民間最終消費」でしょう。四半期の統計です。ただ、1割程度、「帰属家賃」が家賃の支出として入っています。これは、「持ち家の所有者が自分自身に家賃を払っている」と想定した架空の消費なので、実態とずれる一因となります。
家計調査とGDP統計の違い
家計調査は餃子のランキングで有名ですね。
さまざまな観点から活用できる統計ですが、景気統計としては限界がありますね。長所と短所を明らかにします。
家計調査は、消費行動を把握するうえで重要な統計です。日本独特の緻密な統計で、全国の8000世帯に家計簿をつけてもらい、それを統計にしています。かなり細かい品目分類でデータを得ることができます。
GDP統計との違い
消費の全体像を最も表すのはGDPの内訳の「民間最終消費支出」です。しかし、四半期でしか発表されないうえ、内訳もわかりません。そこで、月次で品目別にもわかる家計調査が重宝されることになります。しかし、GDP統計と違うところも多いです。
2人以上世帯重視
家計調査では2人以上世帯が重視されます。単身者世帯や総世帯も同時に発表されますが、発表資料は、2人以上世帯の一世帯当たりの動きを中心に解説されています。
2人以上世帯と単身者世帯では消費行動が違います。単身者の中でも、若者と高齢者とでは消費行動が違うでしょう。2人以上世帯の消費行動だけみていると、日本全体の消費の実態とは、ずれることになります。
高額品はあてにならない
自動車などの高額商品は、頻繁に買うわけではありません。このため、ある月に高額品を買った家計がたまたま多いと、その月の消費を押し上げることになります。このため、GDPの消費を計算する際には、自動車など高額商品は「家計消費状況調査」という別の統計を使っています。
帰属家賃は含まれない
GDP統計の消費では、持ち家の帰属家賃が含まれています。持ち家を持っている人が自分自信の家に家賃を払っているとみなすものです。その分GDP統計の消費は大きくなります。家計調査とGDP統計の結果が食い違う一因です。
家計簿をつける人のバイアス
家計調査は、全国民からランダムに選んだ8000人に家計簿をつけてもらい、それを回収することで統計にしています。毎日家計簿をつけるのを負担と感じる人も多く、調査を断る人もいます。
そうすると、家計調査の協力する家計にはバイアスが生じることになります。家計簿をつける世帯はお金の管理がしっかりしている人が多いでしょう。そうでない人に比べて支出が少ない可能性があります。
家計調査の仲間
家計消費状況調査
家計消費状況調査は、購入頻度が少ない高額商品とICT関連消費を把握するために調査されています。家計調査のサンプルは8000世帯ですが、家計消費状況調査のサンプルは3万世帯と多いです。
家計消費指数
家計調査結果のうち、高額消費部分を家計消費状況調査で補完した統計でしたが、2017年12月で消費動向指数に統合されました。
消費動向指数(CTI)
消費動向指数(CTI)は、(1)2人以上世帯では世帯全体の動きが捉えらていない(2)GDP統計とは定義が違うため、数値の解釈が難しい――という2つの課題について応えたものです。
世帯消費動向指数(CTIミクロ)
総世帯の消費支出額を表す指数です。家計調査、家計消費状況調査、家計消費単身モニター調査の結果を合成して作られています。
総消費動向指数(CTIミクロ)
GDP統計の消費と同じ定義で作成された指数です。GDP統計は四半期でしか発表されませんが、CTIマクロは毎月発表されるので、有用です。