質問への回答
- ミクロ経済学
- 人によってモノに対する価値の感じ方に違いがあるのではないかと考えている。人それぞれの価値観や認識の違いが経済に影響を与えないか?
- 上級財、下級財は人によって違うのでは?
- 理論と現実の違い、経済学の理論の確からしさはどう担保しているのか?
- ギッフェン財を扱う意義
- じゃがいもはギッフェン財でしょうか?
- SHIENやTemuなどの参入は、完全競争市場の構造に影響を与えないのか?普段購入する物の価格が下がった実感はあまりありません。
- ヒューリスティックバイアスの事例について教えていただきたい。
- 今回は短期の限界費用、平均費用、平均可変費用について学びましたが、長期ではこれらの費用の関係性はどのなっているのか疑問に感じました。
- 平均費用の最小値が限界費用と等しくなることについて疑問に感じました。
- 環境への負荷を考えると企業の最大化行動はどうなるか?
- ミクロとマクロの関係。各主体が自分のことだけを考えてしまい、結果的には全体的に悪化させてしまう気がします。
- おまけの価格戦略は、バンドリングととらえてよいか?
- マクロ経済学
- 芸術や人とのつながりが幸福には重要なため、経済学にそれらの要素を組み込むことが課題ということだが、芸術にかんする指標はあるか?
- 経済学からみた日本経済はどのような評価になるのか?
- 通常米と備蓄米は代替財でしょうか、上級財・下級財でしょうか?これまでは下級財だと思いますが。
- 預金者が同時に預金を引き出したらどうなるのか?
- 世界のGDPの各年の推移に関して需要はないか?
- 購買力平価と市場レートの差はどのように埋まっていくのか
- 国際収支の発展段階説で、債権残高がゼロになったらどうなるか?
- パーシェ式とラスパイレス式を用いる目安は
- 帰属家賃では、家賃を計上し続けるということでよろしいでしょうか?
- 物価変化が内容にするのではなく、小幅上昇をめざすのか?
- お米の価格が高くなっているのは、供給が需要に追い付いていないということでよいか?在庫米はGDPになるか?
- 新NISAやFX等の個人投資はマネーストックに影響を与えないか?
- 完全な自由貿易を推し進めると弊害はないのか?
- 上級財が値上げしたとき、代替効果と所得効果は同じ方向に作用して、購入量は減少するということでよろしいでしょうか。
ミクロ経済学
人によってモノに対する価値の感じ方に違いがあるのではないかと考えている。人それぞれの価値観や認識の違いが経済に影響を与えないか?
効用関数のような漠然としたものを想定するのは、人それぞれ違いがあるからです。それを前提として、理論は組み立てられています。
マクロ経済学では、さまざまな個人を扱うのではなく、「代表的な個人」を設定して分析に使う場合があります。さらに「個人の異質性」考慮して分析する場合もあります。
上級財、下級財は人によって違うのでは?
上級財や下級財は人によって違うという理解であっています。人それぞれ無差別曲線が違うので、人それぞれ価格上昇の効果は違うでしょう。
理論と現実の違い、経済学の理論の確からしさはどう担保しているのか?
重要な疑問だと思います。経済学の論文では、理論モデルを構築して、実際のデータで検証するというパターンで書かれている場合が多く、実証分析によって理論の確からしさを担保しているということだと思います。「計量経済学」がそのための分野です。
ギッフェン財を扱う意義
じゃがいもはギッフェン財でしょうか?
ギッフェン財は、価格が上がるほど需要が増える財のことです。アイルランド飢饉でのジャガイモや、中国湖南省の実験でのコメが挙げられます。
代替効果と所得効果が反対に働くことがあるということの代表例として取り上げられますが、価格上昇→需要増加という例はあまりないので、今年の講義から取り上げないことにしました。
SHIENやTemuなどの参入は、完全競争市場の構造に影響を与えないのか?普段購入する物の価格が下がった実感はあまりありません。
もし、価格が下がった実感がないなら、これまでの商品と性格がそんなに違わない可能性があります。ほかとは比べ物にならない低価格の場合は、全く別ものとして扱われていて、市場が違うので、影響を与えないという可能性があります。
または、価格に硬直性があって日本企業はすぐには価格を下げないけれど、時間をかけて下げていくのかもしれません。
ヒューリスティックバイアスの事例について教えていただきたい。
ヒューリスティックとは、人間が脳の処理作業を節約するために直感的に判断することです。省エネの判断なので間違えることもあり、さまざまなバイアスがあります。
たとえば、利用可能性ヒューリスティックは利用可能な情報からのみ判断することです。宝くじの当選者のニュースを見て、自分も当たるかもしれない、と考えたりすることです。実際の確率は非常に低いのに当たる確率を高めに見積もってしまいます。
今回は短期の限界費用、平均費用、平均可変費用について学びましたが、長期ではこれらの費用の関係性はどのなっているのか疑問に感じました。
長期については、今回の講義から省略して、代わりに行動経済学について説明することにしました。興味があれば、以下の記事などを参考にしてください。
平均費用の最小値が限界費用と等しくなることについて疑問に感じました。
グラフを用いた説明はしましたが、ほかのアプローチで説明してみます。
生産量がAの時、限界費用が平均費用よりも低い状態です。生産量を1単位増やすと、過去の平均費用より追加された費用(限界費用)は低いので、生産量を1単位増やした後の平均費用は下がります。
一方生産量がBの時、限界費用が平均費用よりも高い状態です。生産量を1単位増やすと、過去の平均費用より、限界費用は高いので平均費用は上がります。
平均費用が上がりも下がりもしないのは、限界費用と平均費用が交わったところです。これは、平均費用の最下点となります。

環境への負荷を考えると企業の最大化行動はどうなるか?
環境への負荷は、市場を通さずに社会全体の経済活動に悪影響を与えるため、「外部不経済」と呼ばれます。
この外部不経済を市場メカニズムに組み込む手段の一つが、環境税(例:二酸化炭素の排出量に応じた課税)です。
環境税が導入されると、企業の利益最大化行動は次のように変化します:
利益 = 収入 - 費用 - 環境税
つまり、環境への悪影響に対してもコストが発生するため、企業は排出の削減やクリーン技術の導入など、環境に配慮した経済行動を取るようになります。
ミクロとマクロの関係。各主体が自分のことだけを考えてしまい、結果的には全体的に悪化させてしまう気がします。
「各主体が自分の利益を追求した結果、全体として望ましくない結果になる」現象は、合成の誤謬(fallacy of composition)といわれます。
これを避けるには、金融政策、財政政策、所得分配政策などを行う必要があります。
また、マクロ経済学に、ミクロ経済学の理論を導入することを、マクロ経済学のミクロ経済学的基礎付けと呼ばれて、分析されています。ケインズ経済学では、ミクロ的な基礎付けがないと批判されていたため、ニューケインジアンモデルでは、家計や企業の合理的行動からマクロ経済学を分析する手法となっています。
おまけの価格戦略は、バンドリングととらえてよいか?
「おまけ」の性格にもよると思います。全く別の商品のおまけがつく場合は、抱き合わせ販売に近いかもしれません。単体で売る場合は値下げせざるを得ないが、おまけをつけることで、価格を下げずに済む、と考えられます。
おまけの性格 | 戦略 |
本体のミニチュア | 試供品、実質値下げ |
ポイント | 実質値下げ |
全く別の商品 | バンドリング |
マクロ経済学
芸術や人とのつながりが幸福には重要なため、経済学にそれらの要素を組み込むことが課題ということだが、芸術にかんする指標はあるか?
GDPに幸福感などを取り入れようという試みはあります。私も多少書きました。時期のGDP統計の改定では、幸福度に関する指標も取り入れられる予定です。
芸術という意味では、文化庁では、文化GDPを研究しています。
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/bunka_gyosei/93900901.html
経済学からみた日本経済はどのような評価になるのか?
基本的には、存在感が薄れていると思います。以前書いたものです。
円安より数量ベースでの低迷が問題――GDP統計での日本の地位低下が顕著
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4376
通常米と備蓄米は代替財でしょうか、上級財・下級財でしょうか?これまでは下級財だと思いますが。
これまではよほどのことでは備蓄米を食べなかったと思いますが、最近は代替財になっていると思います。備蓄米は所得が低いほど需要が増えると想定されるので、下級財の性格もあると思います。
預金者が同時に預金を引き出したらどうなるのか?
同時に預金を引き出したら、当然足りないでしょうが、統計的に毎日どの程度の預金が取り出されるのかはわかっていると思います。
災害時などでは日本銀行が資金を市場に供給したり、現金を直接輸送したりして対応することになります。
世界のGDPの各年の推移に関して需要はないか?
IMFでは世界のGDPに関しても予測はしていますが、そこまで注目されてないかもしれません。
https://www.imf.org/ja/Publications/WEO/Issues/2025/04/22/world-economic-outlook-april-2025
購買力平価と市場レートの差はどのように埋まっていくのか
基本は市場レートが購買力平価に近づく問ことだと思いますが、購買力平価が市場レートに近づく可能性もあります。インフレが続くと、購買力平価が円安方向に行く可能性があります。

国際収支の発展段階説で、債権残高がゼロになったらどうなるか?
一周して、未成熟な債務国からスタートするというのが発展段階説の考え方です。
パーシェ式とラスパイレス式を用いる目安は
数量データがそろっていれば、パーシェ式かフィッシャー式で、そろってなければラスパイレス式ということでしょう。貿易統計の価格指数は、通関統計なので数量も把握できるため、フィッシャー式です。
帰属家賃では、家賃を計上し続けるということでよろしいでしょうか?
そうですね。家賃を計上し続けるということだと思います。
物価変化が内容にするのではなく、小幅上昇をめざすのか?
ラスパイレス指数には上方バイアスがあるので、2%程度というのが、本来の物価指数では0%に近い可能性があります。デフレを回避するために多少高めに設定しておくという理由もあります。
お米の価格が高くなっているのは、供給が需要に追い付いていないということでよいか?在庫米はGDPになるか?
在庫米は、政府在庫の減少、民間最終消費の増加で、GDPには影響を与えないのではないかと思います。政府在庫として積み上げた時点では、GDPにカウントされています。
新NISAやFX等の個人投資はマネーストックに影響を与えないか?
キャッシュレス化、新NISAなどの影響があるかもしれません。改めて、個人の預金通貨を調べてみると、新NISA導入ど、伸び率がかなり下がっています。傾向的に下がっているのはキャッシュレス化の影響もあると思います。

完全な自由貿易を推し進めると弊害はないのか?
自由貿易にはメリットがありますが、輸入品がはいるということは、競争力のない国内産業が淘汰されるということでもあります。政策による補償などが必要になるかもしれません。
詳しくは、こちらを読んでください。
上級財が値上げしたとき、代替効果と所得効果は同じ方向に作用して、購入量は減少するということでよろしいでしょうか。
その理解でいいと思います。