日本経済新聞社は、学生向けに日経STOCKリーグを開催しています。社会課題となるテーマを検討し、テーマに沿って500万円分の株に投資するためのレポートを書くものです。レポート作成に必要なデータや考え方などを記していきたいと思います。
レポートの構成
日経STOCKリーグのレポートは以下の構成で書くように勧められています。まず、このテーマ順にコメントを書いていきます。
- 暮らしや社会と経済の関係
- 投資テーマの決定
- ポートフォリオの作成(スクリーニング、ポートフォリオの決定)
- 投資家へのアピール
- 日経STOCKリーグを通して学んだこと
- 参考文献
暮らしや社会と経済の関係
このパートでは、社会的課題と経済や企業活動への影響を書きます。新聞などを参考にすることになります。業界地図には、巻頭にさまざまなテーマが載っているのでそれを参考にするといいでしょう。ただ、オリジナリティを重視するなら、自分の身近で困っていることから考えを進めるほうが説得力があります。
情報源としては以下のものがあります。
- 新聞
- ホームページ 政府、地方自治体、各企業、業界団体など
投資テーマの決定
社会的課題が決まれば、それに沿って投資テーマを決めることになります。目的は各企業への株式投資なので、企業の株を選べるテーマかどうかは意識する必要があります。
テーマ決定には、調査研究、フィールドワークをすることでレポートの幅を広げることができます。
フィールドワークの例
- 企業へ訪問して担当者に話を聞く
- 博物館に行く
- イベントに行く
思いつくテーマ
- 東京駅近辺の再開発
- 賃金分配率の高い企業
- 年収の高い企業
- 費用逓減産業
- メタバース参加企業
- オーケストラを応援している企業
スクリーニング
株価に関する情報は以下から得られます。過去のレポートからは、日本経済新聞社や会社四季報を使っているものが多いです。
第1スクリーニング 100~200社程度
ある基準で、200社程度に絞る必要があります。テーマに沿ったものを選ぶことになるでしょう。
投資テーマに沿った企業の選び方は、「新聞のキーワード検索」、「グーグル検索」、「記事から選択」などが考えられます。
第2スクリーニング 50社程度
200社程度の企業を検討して50社に絞る必要があります。ここが最もむつかしいと思います。
財務データのデータベースがあれば比較的簡単かもしれません。また、各社の財務指標を入力する場合、5人チームなら1人40社担当ということになり、無理な数ではないでしょう。
定性情報(企業ホームページから得られる印象など)で評価するには、各企業のホームページを見る必要があります。
エクセルにデータを集約して、ランキングして上位50社を選べばよいと思います。①どのような指標を選ぶ②集計方法をどうするか――が問題となります。
ランキングの作成方法
さまざまな評価項目を総合的に評価して、一つにする必要があります。最も簡単な方法は、各項目に順位をつけて、最も順位が低い企業が1点、最も順位が高い企業が10点などとして、得点を足してその企業の得点とする、という方法です。
財務指標別に点数をつけて合計するという方法もあります。下記の「財務指標の使い方」を参考にして下さい。データベースが使えない場合は、手分けしてエクセルの表を作るとよいと思います。
第3スクリーニング
50社から10社~20社程度
ここも、財務指標を使って絞っているグループが多いです。第2スクリーニングで財務指標を使った場合は、さまざまな基準で企業を評価して点をつけるという方法もあります。
ホームページなどから得られる情報を使うとよいと思います。「社長の顔写真の大きさ」などユニークな基準で選ぶと面白いかもしれません。
ポートフォリオの決定
ポートフォリオの決定と投資配分
どの企業の株をどの程度購入するかを決めます。ポートフォリオ理論を使って計算することもできますが、すべての株を選ぶことにならないかもしれません。
まずは、業種がさまざまで、分散投資できているかどうかをチェックする方がよいでしょう。
リスクとリターンの関係で銘柄を取捨選択する場合は、同一リターンならリスクが少ない方、同一リスクならリターンの多い方といった方針で選ぶこともできます。
購入のタイミング
購入のタイミングを推し量るのは難しいので、実際の値動きをみて、「この時に買っておけばよかった」といった話ができればよいのではないかと思います。
投資家へのアピール
投資家へのアピールは、これまでの分析のまとめで、新たな論点を出すというよりは、効果的なうたい文句などを考えるとよいのではないかと思います。
参考文献
財務指標の収集法
IR BANKの 決算・財務データ一覧からは、全上場企業の財務指標がCSVファイルで入手できて、便利です。
- 貸借対照表(財務)
- キャッシュフロー計算書
- 損益計算書(業績)
- 配当
に分かれています。企業名は、株式コードで書かれているので、企業名だけわかっている場合は、株式コードを知っておく必要があります。
株式コードは、日本取引所グループの株価検索などで調べることができます。
ダウンロードした後は、株式コードの列にデータ→フィルターを使えば、簡単にデータが検索できます。また、株式コードがいくつかある場合は、VLOOKUP関数を使えば簡単にデータが入手できます。
財務指標の使い方
例 | 日経のサイトからとれるもの | 備考 | |
安全性 | 自己資本比率 | 〇 | |
割安性 | 予想PER | 〇 | 毎日変わるので、日時を決める必要があります。 |
収益性 | ROE | 〇 | |
成長性 | 売上高前年同期比 | 〇 | 計算する必要があります。 |
自己資本比率やPERは業種によって水準が違う場合がありますが、その調整は難しそうです。
それぞれの指標を得点化(1点から5点)しているレポートが多いです。どこで分けるかについて、決めておく必要があります。
持続的な成長性を見るなら、「3期連続売上高が〇%以上増加」などの使い方も考えられます。
四分位数分析での目安
IR BANKの決算・財務データファイル一覧には上場企業の全データがCSVファイルで入手できます。記述統計量は以下のようになります。
これを使って、四分位数を求めることができます。下から数えて25%、50%、75%の数値がわかるので、これを基準に4点満点の点数を決めます。
1点 | 2点 | 3点 | 4点 | ||
安全性 | 自己資本比率 | 36.3%未満 | 36.3%以上52.6%未満 | 52.6%以上68.5%未満 | 68.5%以上 |
割安性 | 予想PER | データがないので不明 | |||
収益性 | ROE | 4.5%未満 | 4.5%以上7.9%未満 | 7.9%以上12.4%未満 | 12.4%以上 |
成長性 | 売上高前年同期比 | -10.7%未満 | -10.7%以上-1.9%未満 | -1.9%以上7.9%未満 | 7.9%以上 |
予想PERは、株価を使って計算するので、変動が激しいうえ、時期によって数字が変わります。また、プライム市場とグロース市場では平均値もかなり違います。
入手したデータで順位付けし、4分割して点をつけるという方法もあります。
グループ間の比較
「女性活躍企業のパフォーマンスが良い」かどうかを調べるには、女性活躍企業に選ばれた企業と、同業他社の類似企業を探して、2つを比較することが有効です。女性活躍以外の条件はなるべく同じでないといけないところが難しいところです。女性が活躍しているから業績が良いのか、業績が良いから(または規模が大きいから)さまざまな施策をする余裕があるのかを判別する必要があります。
入賞レポート
これまでの日経STOCKリーグの入賞レポートが載っています。
- 【Python】Pythonの基本操作
- 経済学Q&A(試験編)
- 【経済統計】消費をみるために必要な月次指標ベスト3|消費総合指数、商業動態統計、家計調査
- 経済統計チャットボット マホナ
- 経済金融指標の見方 Q&A2