「経済分析基礎理論」の講義履修者の質問に答えたものです。
- ミクロ経済学
- マクロ経済学
- GDP統計では、数量も金額もあるので、両方使えばよいのに、なぜパーシェ指数を使うのか?
- 貯蓄をタンス預金にしたら把握できないのではないか?
- 固定資本減耗の計算法
- 購買力平価がどのような経緯で提唱されたか?
- 合理性と真逆な理由でビジネスでは成功することもあるのではないか?
- サラリーマン金融や闇金は信用創造になるか?
- Mr.Uの出演はないか?
- なぜこんなにも急激物価が上昇するのか
- 物価の差が為替レートに影響を与えるのはどういう時か?
- 1ドル何円あたりがちょうど良いか
- 政府が増税などによってお金を回収し、公共事業によって還元するという動きは、必要以上に行うとかえって市場に流通するお金を抑えてしまうのではないか。
- プラモデルを組み立てて販売すると付加価値がつく。買った値段より安い値段の場合は付加価値はマイナスとなるか?
- 経済学が数学を多く使うようになった契機としてどのようなことがあったのでしょうか?
- 多国籍企業による海外での利益はGDPではなく、GNIに反映されると考えてよいか?
- MV=PTは現在では不安定化しているのではないか
- ハイエク「中央銀行の信用創造をはじめとする信用を前提とした経済システムが経済不安定化の原因」としているがビットコインの登場などもあり、見直されてもよいのではないか
- 長期平均費用曲線と短期平均費用曲線について
- 2国間以上の生産物の移動についてのモデルはあるか
- 経済分析等において経済センサスのデータは使用されるか?
- 限界費用をゼロにすることは可能か?
- 付加価値の計算は売った金額の合計分になるのか?
- 日本は金利を上げるべきかどうか?
- 代替財をAとBの価値の等しさと、需要量の増減の相関から考察することはできるか?
- メロンの価値とパイナップルの価値について(比較優位)
- 代替財や補完財などの定義は消費の予測に使われるか?
- 赤字を出していても営業することがあるのではないか。
- 前提が多いので、現実の市場にどれだけあてはまるか疑問
- 国民経済計算はなぜこれほどまでに多くの指標を定義する必要があるのか。
ミクロ経済学
なぜ「無差別曲線」は無差別とよぶのか?
「indifferent」の訳をそのまま使ったものですが、確かにわかりにくいと思います。等費用曲線、等量曲線などの言い方もあるので、等効用曲線でもいいと思います。
補完関係の無差別曲線が直角になる理由
完全な補完財の場合は直角になりますが、そのほかの場合は直角になるわけではありません。完全な補完財の例としては、箸の本数が考えられます。両方揃わない限り、効用が増えません。
代替効果について3つや4つの財でもあるのではないか。
代替財は2つ以上あると思いますが、考えやすいように一つの財で代替すると考えているということです。
生産関数の理論はわかるが、実際に当てはまるのか?
実際にはそのまま当てはまらない場合が多いと思いますが、計量経済学では、なるべく当てはまるように工夫をしています。
上級財、下級財以外にあるか?
所得が増えると支出が増えるのが上級財、減るのが下級財なので、これ以外の分類はないと思います。
インフラ事業と操業停止点について
インフラ事業など固定費の大きい産業は、「費用逓減産業」と呼び、独自の分析をします。
独占企業の行動についてグラフはあるか?
独占企業については、価格を自由に設定できることから、完全競争市場とは異なる結果になります。
損得の基準は人それぞれ差異があるとそうそうできますが、経済学で扱っているか?
効用関数はそれぞれ違うものとして扱っています。
生産性をあげることと、短期的には限界生産力が逓減することをどう成り立たせるか?
限界生産力が低くなっている産業から、高い産業に労働力を移動すると全体の生産性は上がります。
3つ以上の場合の無差別曲線はどのようになるか
3つ以上では、図で表すのが難しいの数式で表すことになると思います。
サプライチェーンや為替の変動は限界費用に影響を与えるが、このような変動要因を考慮したグラフや数式はあるか?
供給制約や為替レートを考慮した費用関数はあります。
山田・今井・谷口「物流事業者の行動を考慮したサプライチェーンネットワーク均衡分析」
マクロ経済学
GDP統計では、数量も金額もあるので、両方使えばよいのに、なぜパーシェ指数を使うのか?
数量も金額も両方使う場合はフィッシャー式で、貿易指数に使われています。GDP統計は名目GDPと実質GDPの定義から、パーシェ式で計算することになります。
貯蓄をタンス預金にしたら把握できないのではないか?
S=Y-C
S=I
確かに、タンス預金は把握できないかもしれません。ただ、貯蓄=所得ー消費、貯蓄=投資などの式が成り立つので、ほかの統計から調べることもできます。
固定資本減耗の計算法
内閣府は、詳しい解説書を出しています。固定資本減耗については、第 10 章 資本勘定・金融勘定の推計にあります。
購買力平価がどのような経緯で提唱されたか?
購買力平価は1921年にスウェーデンの経済学者G・カッセルによって提唱された理論で、「 一物一価の法則」 を前提としています。
合理性と真逆な理由でビジネスでは成功することもあるのではないか?
合理性はかなりきつい仮定なので、心理学を応用した行動経済学も盛んにおこなわれています。また、ケインズは不確実性のなかで投資を行う行動にアニマルスピリットという言葉を使っています。
サラリーマン金融や闇金は信用創造になるか?
貸出が行われて、それが新たな預金になれば、預金通貨は増えると思います。
Mr.Uの出演はないか?
梅田先生のことですね。
なぜこんなにも急激物価が上昇するのか
為替レートが10%円安になると、輸入物価も基本的には10%上昇します。為替レートの変動による物価への影響は意外に大きいです。
物価の差が為替レートに影響を与えるのはどういう時か?
一物一価が成り立つとすれば、成り立つはず。成り立たない場合も多いですが。下記購買力平価のパズル参照。
1ドル何円あたりがちょうど良いか
為替の予測は難しく、なかなかむつかしいですが、購買力平価からみるともう少し円高だと思います。ただ、購買力平価から何年もかい離している場合も多く、戻るかどうかはわかりません。
政府が増税などによってお金を回収し、公共事業によって還元するという動きは、必要以上に行うとかえって市場に流通するお金を抑えてしまうのではないか。
クラウディングアウトという状況が近いと思います。民間の投資を追い出す可能性はあります。
プラモデルを組み立てて販売すると付加価値がつく。買った値段より安い値段の場合は付加価値はマイナスとなるか?
200円でプラモデルを買って、それを100円で売ると、マイナスになると思います。通常の企業では損失になるので、そのような商品は作らないでしょうが。
経済学が数学を多く使うようになった契機としてどのようなことがあったのでしょうか?
需要や供給、限界概念を考える際に、数学の応用が便利なようです。以下は1890年出版のママーシャル「経済学原理」に書かれているものです。
「私はクールノーの導きによって、 またそれより程度は少し劣るがフォン・チューネンの 導きによって、 以下の事実が非常に重要だと考えるようになった。すなわち、観察からわかるのは、〔生産のような〕物質面においても〔需要のような〕主観的側面においても、 集計量よりも量の増分が大事だという事実、 そしてとりわけ財に対する需要は連続的な 関数であり、安定均衡のもとではその「限界的な」増分 が その 生産費 の 限界的増分と 釣り合っているという事実である。この点に関して、 数学の記号ないしは 図表の助けを借りないと、 連続性の全体像をはっきりと捉えるのは容易ではない。 図表を利用するのに 専門知識は必要ではないし、図表はしばしば数学の記号よりも容易かつ正確に経済生活の 状態を表現できる。」
伊藤宣広. 英語原典で読むマーシャル:『経済学原理』の世界 (pp.24-25). 株式会社 白水社. Kindle 版.
多国籍企業による海外での利益はGDPではなく、GNIに反映されると考えてよいか?
海外での要素所得はGNIに含まれるので、合っています。
MV=PTは現在では不安定化しているのではないか
不安定化していると思います。
ハイエク「中央銀行の信用創造をはじめとする信用を前提とした経済システムが経済不安定化の原因」としているがビットコインの登場などもあり、見直されてもよいのではないか
勉強してみます。解説で斎藤先生は以下のように書かれています。
こうして書いてくると、勘の鋭い読者は、「あぁ、暗号通貨のことね。フェイスブックだって、通貨を発行しようとする時代だからね」といわれるかもしれない。確かに、暗号通貨(cryptocurrencies)という革新的な金融技術が、ハイエクという天才の頭の中で考えた構想を実現する技術的な基盤を提供する可能性は十分にある。しかし、ハイエクが「理想の通貨」(これは、ハイエクからの引用ではなく、私の勝手な強調)について突き詰めて考えたことは、ある意味、とても当たり前で、ずいぶんと地味なものであった。そんな通貨は、社会経済にとって大変にありがたいのだけれども、その通貨の発行者にとってそれほど儲かりそうにない代物なのである(もしかすると、持ち出しにさえなるかもしれない)。それにもかかわらず、私的主体が、格好のビジネスチャンスとして独自の暗号通貨を発行しようと競い、主権国家が、国際的な通貨覇権を握ろうと自前の暗号通貨を国際標準にしようと企てるかもしれない。暗号通貨をめぐるさまざまな思惑のために、通貨制度は頑健性を高めるどころか、その脆弱性を強めてしまいかねないのである。
右のような帰結は、「通貨発行における自由な競争によって『理想の通貨』が生み出される」というハイエクの予想と真っ向から反する可能性でもある。それは、ハイエクが間違っていたというわけではない。ハイエクの構想では、政府の思惑とは独立に通貨制度が実体経済をしっかりと支える仕組みを作り上げることを意図していたが、暗号通貨という金融技術は、通貨制度を実体経済から引き剝がし、仮想空間の最果てへと強引に引き連れていく怖さがあるのである。言い方を換えると、暗号通貨技術は、「理想の通貨」にとって革新的すぎる可能性がある。
フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek). 貨幣発行自由化論 改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析 (pp.225-226). 日経BP. Kindle 版.
長期平均費用曲線と短期平均費用曲線について
- 長期平均費用曲線の最低点と一致する最低点を持つ短期平均費用曲線が一つある。
- 多くの短期平均平均費用曲線の最低点を長期平均費用曲線は通らない。
というのが正確だと思います。
2国間以上の生産物の移動についてのモデルはあるか
多数財の比較優位モデルはあります。
経済分析等において経済センサスのデータは使用されるか?
経済センサスや経済構造実態調査は、GDP統計を正確に算出するための統計なので、分析に使われないからと言って、有用性がないわけではないです。
限界費用をゼロにすることは可能か?
可能だと思います。ファイルのコピーで増やせるものについて。
付加価値の計算は売った金額の合計分になるのか?
基本的にはなります。産業連関表でも、付加価値額と最終需要額は等しくなります。
日本は金利を上げるべきかどうか?
物価が長期的に上昇局面に入ったと考えれば上げるべきでしょう。その証拠がまだ得られないと日銀は考えていると思います。
代替財をAとBの価値の等しさと、需要量の増減の相関から考察することはできるか?
考察することはできると思いますが、偶然相関する場合があるかもしれません。
メロンの価値とパイナップルの価値について(比較優位)
メロンの価格やパイナップルの価格が、価格以上に売れると儲かるためメロンばかりを生産することになる。
パイナップルを作るのに、300円かかるとする。
国際価格が500円だとすると、300円のコストで500円手に入るので、メロンは作らずパイナップルに特化する。
一方、国際価格が200円だと、300円コストがかかるので、パイナップルは作らず、メロンに特化する。
2国が、同じ財に特化しない時に、貿易が行われる。
代替財や補完財などの定義は消費の予測に使われるか?
どの程度定式化して使われているかどうかはわかりませんが、売れ行きを見る場合に相対価格は重要な要素になると思います。
赤字を出していても営業することがあるのではないか。
部門別には赤字でも全体として黒字なら、営業する場合はあると思います。
前提が多いので、現実の市場にどれだけあてはまるか疑問
理論通りにいかない場合も多いです。できるだけ経済理論を現実の経済にあてはめるのが、計量経済学です。
国民経済計算はなぜこれほどまでに多くの指標を定義する必要があるのか。
細かな違いの変数が多いですが、経済循環を多面的にとらえ、整合性をとるには必要だということだと思います。