「合計特殊出生率」という言葉はよく聞きますが、何を合計していて、何が特殊なのかは、あまり説明されていません。このブログを読むと、「合計特殊出生率」の意味や、日本の少子化の現状が他国との比較も含めてよくわかります。
経済統計の使い方では、統計データの入手法から分析法まで解説しています。
2021年は1.30
合計特殊出生率は、「女性が一生のうち産む子供の数」を表します。2022年6月に日本の2021年の合計特殊出生率が発表されました。厚生労働省の人口動態調査を使った人口動態統計に載っています。
2021の合計特殊出生率は1.30となり、過去最低水準です。新型コロナ感染拡大が始まった2020年よりも低い水準です。人口が変わらない合計特殊出生率の水準(人口置換水準)は2近辺になりますが、それよりもかなり低い水準です。
国際比較でも低い
厚生労働省は、国際比較できる数値も発表しています。韓国やシンガポールの合計特殊出生率は日本よりもさらに低いですが、ヨーロッパ諸国は高いです。フランスは2020年で1.83です。
合計特殊出生率 | ||
フランス | 1.83 | 2020 |
イギリス | 1.68 | 2018 |
スウェーデン | 1.67 | 2020 |
アメリカ | 1.64 | 2020 |
ドイツ | 1.53 | 2020 |
日本 | 1.30 | 2021 |
イタリア | 1.24 | 2020 |
シンガポール | 1.12 | 2021 |
韓国 | 0.84 | 2020 |
なぜ「合計」で「特殊」なのか
なぜ合計特殊出生率 (total fertility rate) というのでしょうか?
「特殊」と呼ぶのは、「普通」の出生率があるためです。厚生労働省は「普通」の出生率も発表しています。1000人当たりの出生数で、2021年は6.6です。人口の0.66%に当たる人が生まれたということです。
ちなみに、英語ではtotal fertility rateで「特殊」を表す言葉は入っていません。
「普通」の出生率は簡単に計算できますが、分母の人口は、小さな子供や高齢者も含まれています。出産に関係しない小さな子供や高齢者が多ければ、出生率は低くなります。年齢構成によって数値が変わるため、年次比較や国際比較ができない指標です。
合計特殊出生率は、15歳から49歳までの年齢別出生率を合計したものなので、「合計」がつきます。出生率と「率」がつきますが、%表示ではなく、年齢別では1が最高の値(全員子供を産んだ場合)となります。
たとえば「女性は20歳と30歳に必ず子供を産み、ほかの年齢では産まない」という国があるとすると、20歳の出生率は1,30歳の出生率も1、他の年齢は0となり、この国の合計特殊出生率は2となります。
この指標を使えば、今後人口が増えるのか減るのかが、その時点での年齢構成に関係なく、予測できます。合計特殊出生率が2を超えていれば人口は増えていき、2を下回れば人口は減っていきます。
期間合計特殊出生率とコーホート合計特殊出生率
本来は、それぞれの女性が何人の子供を産むのかを調べる必要があるわけですが、そうするとそれぞれの女性の合計特殊出生率は50歳になるまでわからないことになります。
その考え方で、同一世代生まれ(コーホート)を調べて計算するものがコーホート合計特殊出生率ですが、通常は使われません。結果がわかるのが遅いためです。
コーホート合計特殊出生率では結果が出るのが遅いため、ある期間(1年間)の年齢別出生率に着目したものが期間合計特殊出生率で、これが通常使っている合計特殊出生率です。一人ひとりの女性を追うのは大変なので、ある時点での女性の一生分を把握しようとするものです。
人口置換水準
人口が変わらない合計特殊出生率の水準を人口置換水準と呼びます。お父さんとお母さんは合わせて2人です。この2人が亡くなった後も人口が変わらないためには、こどもが2人必要になります。そこで人口置換水準は2に近い数値となります。途中で死亡する場合もあるので、多少高めになり、日本の場合は2.08です。
合計特殊出生率が人口置換水準を下回る限り、人口はどんどん減少していきます。それが問題の本質です。
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