経済統計の使い方では、経済統計の入手法から分析法まで解説しています。
日本経済への影響が大きい
原油はほぼ海外からの輸入に頼っており、原油価格は日本がコントロールできない要因のうち重要なものの一つです。
原油は精製されて、ガソリンや火力発電燃料、ジェット燃料、化学製品などに使われます。
ガソリン価格上昇は、輸送コストの上昇を通じて商品全体への価格に影響を与えます。火力発電のコスト上昇は電力料金の値上げにつながります。ジェット燃料の値上がりは、航空料金の値上がりを通じて、旅行需要に影響を与えます。
こうした燃料など直接的な影響のほか、プラスチックやポリエチレン、スチレンなどさまざまな化学製品の材料にもなっています。スーパーでよく使う食品トレーや納豆のパック、プラスチック製品全般の価格について影響します。
月例経済報告の主要経済指標では、「国際金融」の一項目として原油価格が載っています。
原油の種類
原油価格は、「1バレル当たり○ドル」という表現をします。バレルとは体積に単位で、「樽」という意味です。石油が昔、樽で運ばれていたためです。1バレルは159リットルです。原油にも銘柄があって、東京ではドバイ、ニューヨークではWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)、ロンドンでは北海ブレントの価格が決まります。
ドバイは都市の名前です。WTIは、西テキサスの中級原油ということです。北海ブレントは、北海のブレント油田産の原油という意味です。
貿易統計からは、日本が輸入する原油全体の価格動向がつかめます。原油輸入金額を輸入数量で割れば計算できます。ただ、通関統計の輸入金額は円単位、数量はキロリットル単位なので、単位の変換をする必要があります。
$ 1キロリットル=6.28981バレル $
となります。具体的な計算法は、「通関原油輸入価格の計算法」をみてください。
IMFのPrimary Commodity Prices のサイトでは、原油価格のデータが月次でエクセルファイルで入手することができます。以前はWTIやドバイ原油、北海ブレントそれぞれのデーがが入手できましたが、現在は3種を単純平均して2016年を100とした指数が入手できます。
また、日本のガソリン価格に関しては、石油情報センターのサイトが便利です。週次や月次でガソリンの小売価格をエクセルファイルで入手できます。
思わぬ時に上昇
原油価格はこれまで大きな影響を与えてきました。原油価格は周期的とはいえないまでも、10年に一度は急上昇しています。常に上がっているわけではないですが、中東情勢が不安になると原油価格が上昇します。忘れたころにやってくる日本経済へのかく乱要因です。まず、1973年に原油価格が約4倍に値上がりしました。第一次オイルショックです。第4次中東戦争で、石油供給国グループであるOPEC(石油輸出国機構)が原油価格を大幅に引き上げました。
その後も、イラン革命を機に、石油価格が値上がりしました(第2次石油ショック)。1991年にイラクがクエートに侵攻したことで勃発した湾岸戦争でも原油は値上がりしました。2003年のイラク戦争時にも原油価格が上がりました。その後は中国やインドの需要増加で上昇傾向を続け、2008年がピークになりました。
2022年にはロシアのウクライナ侵攻で、ロシアからの原油が入手困難になることから、原油価格が急騰しました。
原油価格の日本経済への影響
原油は、ガソリンなどに使うほか、さまざまな工業製品の原料となっており、景気に大きな影響を及ぼします。
原油価格は火力発電の原料になるため、エネルギー価格の変動に影響を与えます。そのほか、化学製品の原料になっているため、さまざまな製品の価格に影響を与えます。
原油価格変動の原因
原油価格は中東情勢に大きく左右されます。過去石油価格が大きく上昇したのは、第4次中東戦争、イラン・イラク戦争、湾岸戦争など中東情勢と大きくかかわっています。また、最近経済成長が目覚しい国が増え、国際的にエネルギーの需要が増えているのも原因です。
2022年にはロシアがウクライナに侵攻し、エネルギー供給が滞ることが懸念されて、原油価格が高騰しました。
原油価格の変動の影響
原油価格の動向が重視されるのは、原油がさまざまな製品の原料となっているからです。原油価格の上昇は、原油から作られるさまざまな製品の値段を上げることになります。
直接的影響は3%分
原油価格の影響が家計に直接かかわる部分は、消費者物価指数のウエートをみることでわかります。電気代、都市ガス代、プロパンガス、灯油、ガソリンがエネルギーのウエートです。2020年基準のウエート表でみるとエネルギーのウエートは1万分の712で、約7%となります。
また、2020年度のエネルギー需給実績によると、エネルギー供給に占める石油の割合は 36.4%なので、原油価格上昇の影響は、7%×40%で、2.8%だということがわかります。約3%分だということがわかります。
ガソリン価格が上昇
産業を通して影響する部分もあります。原油は、精製することでガソリン、灯油、ナフサなどに分解されます。ガソリン価格が上がれば、自動車を使って活動している産業の費用に影響します。タクシー、宅配便などは直接影響を受けますし、さまざまな製品の輸送コストも上昇することになります。
石油精製のわかりやすい図解は、石油化学工業協会の「石油化学製品はこうしてつくる」をご覧ください。
納豆やクリーニングにも影響
ナフサはさまざまな石油化学製品の原料となります。プラスチックや合成繊維、合成ゴム、洗剤や石鹸などが作られています。このため、原油価格の上昇は、納豆やクリーニング代の上昇にも波及します。納豆の容器の原料は石油化学製品ですし、大豆を蒸すためにも石油が使われます。クリーニングにも関係があります。クリーニングするためのボイラーの燃料のほか、ハンガーやビニール袋も石油化学製品です。
原油を精製することで、さまざまな石油製品ができます。重油や軽油など、種類によって沸騰する温度が違うので、徐々に温めていくと、さまざまな油種に分けることができます。
- 灯油
- ガソリン
- プロパン
- ジェット燃料
- 軽油
- 重油
- アスファルト
- 硫黄
- ナフサ
このうち、ナフサは、さまざまな石油化学製品の原料になります。非常に幅広い製品が作られます。ナフサを分解して、以下のような製品が作られます。
エチレン | プロピレン | ブタジエン | ベンゼン | トルエン | キシレン |
プラスチック | 合成繊維原料 | 合成ゴム | 塗料原料・溶剤 | 合成洗剤、界面活性剤原料 | その他 |
ポリエチレン ポリプロピレン 塩化ビニル樹脂 ポリスチレン | エチレングリコール テレフタル酸 アクリロニトリル カプロラクタム | スチレン・ブタジエンゴム ブタジエンゴム クロロプレンゴム | アルキド樹脂 ポリウレタン メチルエチルケトン 酢酸エチル ブタノール | アルキルベンゼン 高級アルコール エチレンオキサイド | |
自動車 家電製品 包装・容器 日用品・雑貨 | 衣料 インテリア | 自動車 日用品 | 自動車 鉄道 建物 木工 | 洗剤 せっけん | 肥料 農薬 医薬品 |
日本経済に与える要因の変化
原油価格の上昇が日本経済に与ええる影響については、いくつかの要因について考える必要があります。一つは、総発電量に占める火力発電の比率です。原子力発電が減少したことで、石油を使って発電する火力発電の比率が高まっています。その意味では、日本経済に与える影響は以前より大きいです。
次に省エネの状況です。エネルギー効率が良ければ、それほどエネルギー価格の影響を受けないことになります。GDP1単位当たりのエネルギー効率は先進国の中でも低い水準にあり、その意味では他国よりは影響は小さいです。
また、為替レートの影響も受けます。円高になれば、上昇を相殺しますし、円安になると国内価格はさらに上昇することになります。
また、原油価格が輸入段階では上がっていても、小売価格がどの程度上がるかは状況によります。ガソリンスタンドでは、顧客争奪戦が激しく値上げそするのが難しい場合があります。