経済予測は、さまざまな経済指標を整合性を取りながら予測するのが本筋です。最終的には計量経済モデルなどを組み立てる必要があります。
一方で、大まかに全体を把握する必要もあります。この予測法で以下のことがわかります。
- 大まかな成長率の予測ができる。
- こんな成長率は可能性が高い、こんな成長率は現実的ではない、という相場観が持てる。
経済統計の使い方では、統計データの入手法から分析法まで解説しています。
ゲタを測る
GDP統計は四半期に一度発表されるので、実績値は最新のものまで把握します。年度の途中まで発表されていると、その年度について、多少のことはわかります。
2020年11月時点では、2020年7-9月期までわかります。年度の半分の値については判明していることになります。これを使わない手はありません。
まず、実質GDPが、この先まったく成長しなかった場合(前期比ゼロ)の成長率を測ります。これが予測のベースになります。グラフは後ででてきます。これを年度で集計したものをゲタと呼びます。2020年7-9月までに成長していれば、その後前期比ゼロでも、年度では成長していることになるためその成長率分をゲタと呼びます。
2022年度は、2022年10-12月期、2023年1-3月期にマイナス成長がないとすれば、最低でも1.3%は成長できることを示しています。
2022年度 | 2023年度 | 2024年度 | |
前期比ゼロの場合の成長率 | 1.3 | -0.1 | 0.0 |
潜在成長率を想定する
ゲタの計算ができたところで、次は、潜在成長率を想定します。潜在成長率は簡単にいえば、日本経済に何のショックもなければ、達成できるであろう平均的な成長率のことです。予測期間は潜在成長率で伸びていくと想定するのが、平均的な予測となるでしょう。前年度と当年度に例外的な動きがない場合は、潜在成長率で成長すると考えられます。
内閣府は月例経済報告でGDPギャップを発表すると同時に潜在成長率も発表しています。
直近の潜在成長率は、年間0.5%程度です。年間0.5%成長するためには、四半期の前期比は何%になるでしょうか?
簡易的に、年間成長率を4で割った数字(0.5%の時は0.125%)を置いても大きくはずれませんが、詳しく計算すると以下のようになります。
四半期の前期比成長率をg%とすると、年間0.5%成長する時、以下の式が成り立ちます。
$ (1+g/100)^4=1+0.5/100 $
これをgについて解くと以下の式になります。
$ g= ((1.005)^{1/4}-1)×100 $
g=0.124766%になります。ほぼ0.125%です。
年度ごとの想定をする
何の変動要因もなく潜在成長率で成長する場合は希で、毎年さまざまな出来事が起きます。
- 消費税率が上がるので、駆け込み需要とその後の消費の冷え込みが想定される
- 大震災が起こり、被害による供給制約と復興需要が発生する
- 海外の好景気で想定以上に輸出が伸びる
- 財政政策や金融政策の変動
- 為替レートの変更
これらの要因をベースの予測に加えていくことで、現実に近い予測ができるようになります。大局を捉えるという意味では、それぞれの要因を大まかに想定していくだけでよいと思います。
コロナ前にはいつ戻るのか
2022年度と2023年度を考える場合には、新型コロナウイルスの感染拡大による人流の制限とその解除が成長率に大きく関係してきます。
現状では、第8波が起こりそうですが、経済活動の制限はない可能性が高いです。海外からの訪日外国人の制限も緩和されています。
そこで、コロナ前の水準に徐々に戻るとして予測します。新型コロナウイルス感染拡大前で、最も実質GDPが高かったのは、2019年4-6月期です。この水準まで、実質GDPが回復するシナリオを作ります。いつこの水準に戻るかを確実に予測することはできません。シナリオとして以下の2つを考えます。
- 2023年度末にコロナ前の最高値を達成し、その後潜在成長率で推移する場合
- 2024年度末にコロナ前の最高値を達成する場合
グラフで表すと下記になります。それぞれの四半期の値を平均して年度の値を作り、成長率を計算すると以下になります。
いつコロナ前の水準に戻るのかは、予測者の考え方次第で、どちらの予測をとるのかは予測者に任せれています。両者を加重平均して予測を作るという手もあります。
2022年度 | 2023年度 | 2024年度 | |
シナリオ1 | 1.7 | 1.8 | 1.1 |
シナリオ2 | 1.6 | 0.9 | 1.0 |
これがベースの予測になります。大まかな相場観があれば、他の機関の予測をみても、高すぎるとか低すぎるとか自分の物差しで測ることができるようになります。ぜひ試してみてください。
他機関との比較
他機関との比較をしてみます。政府の経済見通しと、ESPフォーキャスト調査(11月予測)です。ESPフォーキャスト調査は日本経済研究センターが、民間シンクタンクの見通しを集計して発表しているものです。
2023年度に関して、シナリオ1は0.9%、シナリオ2は1.8%ですが、政府見通しも民間予測機関平均もその間に入っています。シナリオ2寄りの予測で、回復へのテンポは遅いと予測していることを意味しています。
2022年度 | 2023年度 | 2024年度 | |
政府見通し | 2.0 | 1.1 | |
ESP(民間予測平均) | 1.9 | 1.2 | |
シナリオ1 | 1.7 | 1.8 | 1.1 |
シナリオ2 | 1.6 | 0.9 | 1.0 |
数値の動き
エクセルでそれぞれの数値がどのように動いたかを紹介しておきます。これをもとにグラフを描いています。