デフレマインドが消えるチャンス
景気は、ロシアのウクライナ進行で先行きの不透明感が増した。ニューヨークダウ平均株価は、2022年1月に3700ドルだったが、3月16日時点では、3万3000ドルまで低下した。株価が上昇する気配は見えておらず、証券市場は先行きを悲観的に見ている。
NY原油先物(WTI)は一時1バレル=126ドルまで上昇したが、その後急落した。それでも3月16日時点では同96ドルで、前年の同月の同60ドルよりはかなり高い。
この間円安も進んだ。2021年12月初めには1ドル=130円だったが、3月16日には1ドル=118円台である。日本円は安全資産として金融不安時には買われる傾向があったが、今回は事情が違う。エネルギ-価格の上昇で経常収支の赤字が増えることが予想され、円への需要が減るという連想で大幅な円安が進行した。
原油高、円安という輸入価格の上昇要因は今のところ国内物価に波及していない。2022年1月の消費者物価指数の総合指数は前年同月比0.5%上昇した。そのうち、エネルギー価格は 同16.4%上昇した。しかし、生鮮食品・エネルギーを除く総合指数(コアコア指数)は、同1.1%低下だ。これには携帯電話の通信料金の低下という政策的な要因が入っており、それを除けばほぼ横ばいである。
しかし、今後輸入価格の上昇が原材料価格の上昇を通じて企業収益を圧迫する恐れがあり、企業は価格を転嫁せざるを得ない見通しだ。
その後の景気を占ううえでは、賃金動向が重要だ。賃上げが抑制されると景気後退が長引く可能性が高い。賃金が変わらず物価が上昇すると実質所得は減り、消費は減少するためだ。企業収益確保のために人件費を抑制したとしても、製品が売れなければ結局企業収益は減少する。悪循環である。
賃金が上がり、家計がインフレ期待を持つようになれば、流れは変わる。日本経済は2000年以来デフレに悩まされてきた。アベノミクスの下で日本銀行は2%のインフレ目標を掲げたが、未だに達成できずにいる。
他国に例を見ないほどデフレが長引いている主因は、家計も企業もインフレ期待を持てないためだ。製品価格を上げると需要が減ってしまうことを恐れ、企業は価格を上げられない。家計は価格が上がらないのが当然と思うため、値上げに必要以上に財布のひもを締めるという悪循環だ。
それを断ち切るには、家計と企業がインフレ期待を持つことが重要だ。家計は物価上昇を予想するが、賃金が上がれば消費を減らすことはない。企業が製品に価格転嫁できれば、賃上げしても利益は出る。こうした新たな流れができることを期待したい。
(オフィス海水浴CEO)